【アトロク】『偉人の影に埋もれてしまった才女達の”運命”』特集/偉大な夫の影で社会的搾取を受けてきた女性たちの話〈おすすめラジオトピック〉

アインシュタインは知っている。けど、彼の妻については考えたこともありませんでした。

2020年7月のカルチャーキュレーション番組「アフター6ジャンクション」で、この度25年ぶりに復刊した書籍「才女の運命」に関する特集がありました。

この回の特集は、ジェンダー観やフェミニズムの入門にもなる非常に真面目で、勉強になる放送でした。

ここでは、放送当時の音声を聴きなおせるサービスの紹介と、放送内容の要約をお伝えしていきます。

おすすめラジオトピックについて
「おすすめラジオトピック」では各種ポッドキャストサービスで聴きなおせるラジオ番組を紹介しています。聴きなおせるサービスやリンクを記載しているので記事だけでなく、ぜひ放送内容を確認してみてくださいね。

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【アトロク】歴史的偉人の影に隠れた才女の運命

番組名アフター6ジャンクション
放送局TBSラジオ
放送日2020年7月8日
タイトル歴史的偉人の影に隠れた才女の運命(松永美穂さん)
時間約52分
放送アーカイブ・ラジオクラウド
・Spotify

[ラジオクラウドURL]
https://nhsw9.app.goo.gl/WUUmvNSh2dQKoPgv6

[SpotifyURL]

出演者

レギュラーパーソナリティライムスター宇多丸(メインパーソナリティ)
TBSアナウンサー 日比麻音子(火曜日パートナー)
特集ゲスト松永美穂(ドイツ文学翻訳家)

放送内容の要約

この日の特集コーナーは25年ぶりに復刊された「妻女の運命 男たちの名声の影で」(フィルムアート社)に関するもの。本書の翻訳を担当した松永美穂さんをゲストに迎え、本書の内容を紐解く特集です。

翻訳者 松永美穂さんの経歴とドイツのフェミニズム事情

松永美穂さんは90年代初頭に、お子さんとお母さまを連れてドイツのハンブルクに留学。

学生結婚して子どもを早く生んでいて、留学は諦めかけていた。奨学金の試験をギリギリのタイミングで受けたところ、受かったのが理由。
留学先にドイツのハンブルクを選んだのは、当時有名な女性の教授が3名いて、フェミニズムの研究が進んでいたから。「才女の運命」の著者のインゲ・シュテファン教授とは当時からの知り合い。ちなみに、インゲステファンは3人のお子さんを育てながら教授を務めていたようです。

「才女の運命」は本来はラジオ番組用に書かれたものだった。一般の人に知ってもらうために出版することになった。

ドイツと日本のジェンダーギャップ指数について

ジェンダーギャップ指数(153ヶ国中)をドイツと日本の順位について触れられました。

・日本121位
・ドイツ10位

日本は毎年低い数値(ちなみに121位は過去最低)。ドイツは北欧が近い。北欧には政治のリーダーに女性が多いこともあり、人権意識が高い傾向にある。

ジェンダーギャップ指数とは

ジェンダー・ギャップ指数は、世界経済フォーラムが2006年より公表しているレポート Global Gender Gap Report(『世界男女格差レポート』)にて公表されている、世界の各国の男女間の不均衡を示す指標。スコアはランキングの形で示される。

「Global Gender Gap Report 2020」では153の主要国と重要国が含まれており、日本は過去最低となる121位だった。

「才女の運命」の内容紹介(22分頃~)

「才女の運命」偉人たちの影に隠れてしまった女性たちを知る手がかりとして、彼女たち自らの言葉(日記や書簡)を基に書かれた本。

(日比アナ)「今だからこそ、声を大にして伝えたいと想う」

ソフィア・アンドレイェヴナ・トルストヤ

※ここから先の引用部分は日比アナウンサーの朗読箇所です
ロシアの文豪、トルストイの妻による日記。まず始めに、晩年の彼女の日記を日比アナウンサーが紹介します。

どうして女性の天才はいないのだろうと、わたしはこのごろ考えています。作家にも、画家にも作曲家にも女性の天才はいない。それは、力のある女性たちがその情熱と能力のすべてを家族や愛するもの、夫のために、そしてとりわけ子どもたちのために浪費してしまっているからなのです。

彼女の能力は枯れてしまうか、きちんと成長することもなく、芽のうちに摘まれてしまうのです子どもを産み、教育し終わると、芸術的な欲求が目覚めますが、それからではもう遅いのです、もうモノにはなりません。結婚していない女性たちはしばしば精神的・芸術的能力を発揮しますが、こうして芽生えた才能もその人かぎりで、次の世代には受けつがれません。独身の女性たちは子孫を後に残しませんから。」

しかし、18歳の独身時代には以下のような日記を書いています。

「わたしの自我は空間や時間に支配されず、自由で限りなく、万能です。独身時代の最後の日々特別な生命力と内的な感動によって貫かれていました。」

このように、結婚前は希望にあふれた文章を書いていました。ですが、結婚から30年後は以下のように記しています。

「わたしはまるで自動機械のように生きている。歩き、食べ、眠り、湯浴みし、清書して…。私生活はなく、読んだり、遊んだり、じっくり考えることもできない。ずっとこんな生活なのだ。これが生活といえるだろうか?実のところわたしには生活などないのだ・・・。」

元々ソフィアは、医者の娘で芸術に強く、文章も書け、教養ある女性だった。
彼女の小説を読んだトルストイに求婚され18歳で結婚(しかも求婚からわずか7日)。

その後13人の子どもが生まれるも、トルストイは彼女以外の恋人がおり、奔放な生活を送っていた。結果、結婚生活が不和になっていく。

ソフィアは、結果として悪妻として語り継がれてしまう。恐らく理由は「夫婦生活をサポートできなかった女性」「男性の伝記は男性視点になりがちで、そもそも彼女の日記も日の目を浴びることがなかった」だったからではないか。

クララ・ヴィーク=シューマン

音楽家ローベルト・シューマンの妻。

「無力感がわたしをとらえて離さない。自然はわたしにもっと多くの力を与えてくれたのではなかっただろうか?それともわたしが自然の力をうまく使えないだけなのだろうか?わたしが何もなしえず、自分の人生の重点をわたし自身のなかではなく、他の人々のなかに探さねばならないなんて?」

比較的仲が良い有名な夫婦とされている。だが、この本を読むとまた印象が変わる。

父がピアノの先生で天才少女と呼ばれていた。ローベルト・シューマンと結婚後は、彼のよき理解者だったが、最終的に彼女は精神的に病んでしまうことに。

はじめは才能を認め合い対等な関係だった。だが、子供、生活に時間を取られてしまい、自分の時間がなかったのではないか。クララはシューマンを支えたが、彼は彼女を支えることがなかった。

クララシューマンは近年、再評価が進んでおり彼女が作曲した楽曲も発売されている。

ミレヴァ・マリチ=アインシュタイン

アインシュタイン最初の妻ミレヴァ。ここでは、結婚前の彼女のコメントの読みから始まります。

「わたしがいつか結婚することになるかどうかわからない。わたしは、女でも男のようにキャリアを積むことができると思うの。」

しかし、結婚後は以下のように語っています。

「夫のアルベルトはそうこうする間に有名な物理学者になり、物理の世界では非常に尊敬もされ賞賛されてもいます。彼は疲れることなく自分の研究課題と取り組んでおり、ただ研究のために生きていると言ってもよいほどです。」

チューリッヒ工科大学の当時唯一の女子学生。アインシュタインと気が合って、恋愛関係に。結婚前に妊娠し、大学を卒業できなかった。しかし、共同研究のパートナーとしてアインシュタインと一緒に仕事を続けていた。

はじめはアインシュタインとミレヴァの共同論文として名前を併記していたが、徐々に彼女の名前が載らなくなる。

相対性理論を発表したのは結婚後3年。彼女のサポートはあったと思われるが、彼女は見えない存在になってしまう。

その後、アインシュタインから離婚を申し込まれてしまう。

(宇多丸)「こんなアンフェアな話があるか、しかも全然現代の話」
(日比アナ)「ミレヴァさんのことが全く知られていない、私も知らなかった」

放送内容まとめ

(宇多丸)この本に登場する女性は最終的に精神病院に入れられるパターンが多すぎる。

(日比)本にできただけでも、彼女たちは少しでも救われたのではないか。

今回紹介した男性による搾取は、現代でも全然あり得る構図。日本にも色んなところで現状も起こっていると思う。

ただ、そういうことがあったんだ、あるんだと知ってもらうだけで、女性の生き方も少しずつ変わってくる。

この放送の感想

ここで紹介されるトルストイ、シューマン、アインシュタンは当然ながら知っていました。ですが、ここで紹介された彼らの妻については名前を聴くのも初めて。

この回は、才能ある彼女たちがいかにして男性から社会的・創造的な搾取を受けてきたのか、その一端を学ぶことができる非常に真面目な特集でした。フェミニズムの入門にも良いですし、単純に聴いていて勉強になりました。

また、以前紹介した「荻上チキ Session-22 」特権に関するトークと重なる点もあり、興味深かったです。

ちなみに、私はこの放送を聴いて「才女の運命」を早速購入。実際に読むとジェンダーの問題だけでなく、社会の中で排除されてしまうメカニズムについても考えさせられます。

ここでは紹介しきれませんでしたが、放送アーカイブでは日比さんの感情の入ったコメントや、宇多丸さんによるフィッツ・ジェラルド(「グレート・ギャッツビー」の著者)に対する言及など、聴いてほしいポイントはまだまだあります。

この放送は各種ポッドキャストサービスで聴きなおせます。ぜひそちらも参照してみてくださいね。

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