こんな文章が書けるあなたの方こそ妬ましい!
音楽、映画、演劇、文章…あらゆるカルチャーへの嫉妬をぶちまけたエッセイ集。それが本書「悔しみノート」。内容のもの凄さもさることながら、誕生の経緯も含めて奇跡的な1冊とも言える本なのです。
目次
【書評】悔しみノート
書名 | 悔しみノート |
著者 | 梨うまい |
出版社 | 祥伝社 |
本体価格 | 1,300円+税 |
商品コード | 978-4-396-63591-6 |
TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」発!
負け犬の遠吠えが突き刺さる!
観る聴くもの全てに嫉妬し悶える若者の悔しみの記録。
-出版書誌データベースより
時に乱暴、だけど不思議と引き込まれる文章
「悔しみノート」は著者の梨うまいさんが、あらゆるカルチャーや人に対する“悔しみ”(=嫉妬や妬みといった意味を持つ造語)をひたすらに書き綴ったノート。目についた全てのものに噛みつかんばかりに嫉妬心をぶちまけたような勢いのある文章が特徴です。と、ここで説明しても伝わりにくいと思います。ですので早速ですが、以下に本書の内容を一部引用して紹介します。
この映画、周囲の評判は散々でした。ご都合主義、頭の中お花畑映画など。はぁ?何言ってんの。これ単純なんじゃなくて、シンプルに見せてんだよ!!
Look out ‘cause here I come.
今に見てろ、今に見てろよ。人からの侮辱に憤ることさえできず、愛想笑いまでしてしまった自分を恨んで、蔑んで、目に入らないように傷を隠して身をかがめて歩いたことがないのか?私にはあるね。だから十分にこれは私の話だと思える。ペラペラなのはこの映画じゃなくてテメェの人生だよ。また悪口を言ってしまった。I make no apologies, this is me.
-「グレイテスト・ショーマン」(p53-p55)より一部引用
このように感情をそのまま紙にぶつけたような文章。言葉も決してキレイではない(と、いうより基本的には嫉妬や妬みばかりが綴られています)。
でも、読んでいて不思議とイヤな気持ちにはならないのです。むしろ、グイグイと文章に引き込まれてしまう。その理由はどんなに乱暴に見える文章でも、”悔しみ”の対象となっている作品や人に対するリスペクトが感じられるから。
なので、「ふざけるなよ」「ほんと腹立つわ」といった乱暴な言葉をつかっていても、それらの作品を観てみたい!読んでみたい!聴いてみたい!と思わされてしまう。”悔しみ”を書き綴ることで、かえってその対象の魅力を紹介するレビューにもなっているんです。
TBSラジオから生まれた奇跡の本
本書はTBSラジオの番組「ジェーン・スー 生活は踊る」の相談コーナーに、著者の梨うまいさんが悩みを寄せたことがきっかけで生まれた本。当時の相談内容をざっと紹介します。
この相談は2018年9月のもの。その翌年2019年12月に1年分の”悔しみ”を綴った「悔しみノート」が番組に届き、今回の出版まで繋がったわけです。
出版までの経緯については、別の記事にまとめています。気になった方はぜひチェックしてみてください。
注意!メンタルが落ちる可能性あり
この本、間違いなくオススメなのですが、一つだけ注意点が。それは、「悔しみノート」はメンタルが万全なときに読むようにしてほしい、ということ。
梨うまいさんの悔しみは「星野源」「グレイテストショーマン」「オードリー若林正恭」「逃げるは恥だが役に立つ」といったカルチャー全般が対象。ですが、それだけでは留まらず仕事をしないで愚痴ばかりこぼすバイト先の店長、初対面で恋バナをしてくる同僚など。、者の周囲の人にも向けられます。
他の悔しみの対象と同じく「このヤロウ!」と言葉の切れ味は鋭い。ですが、その言葉の切っ先が次の段落で著者自身に向けられる場合も多々あります。「自分も同じなんじゃないか?」「私はきちんとイヤだと意思表明をした?」というように。
ですので、「そうだそうだ!」なんて思って読んでいると、著者自身に向けられた言葉の切っ先が本のページから飛び出して、私たち読者自身にも向けられるわけです。これ、気持ちの準備ができていないと、結構メンタルにくるので要注意。
また、梨うまいさんのカルチャーへの造詣の深さもメンタルに良くないポイント(失礼な物言いですみません)。
わたしの場合は、著者が元々詳しい映像系作品の批評ついては「勉強になるなー」と関心して読めました。一方で、自分が詳しいと思っているジャンル(例えばヒップホップ関連)では「ケンドリックラマーを初見で聴いて、そんなレビューが書けるなんて、勘弁してくれよ…」と嫉妬の感情すら覚えました。
まとめ
私は「悔しみノート」を読んで、正直な言葉ってこんなに人の心に刺さるのか、と感動しました。基本的に良いことは書いていない。それに言葉遣いも正直キレイではない、けれどグイグイ読ませる力がある文章に惹かれます。
そして、こんな悔しがることができるなんて羨ましい!と、思っていたらジェーン・スーさんが推薦文でこの気持ちをバッチリ代弁してくれていました。
私はもう、こんな風には悔しがれない。
あなたが心底うらやましい。 -ジェーン・スー-本書帯の推薦文より
また、「悔しみノート」は出版を前提に書かれた本ではありません。ただ自分のためにひたすら悔しさをノートに書き綴った内容が、書籍になるのは本当に奇跡に近い出来事だと思います。
この投稿内でも紹介しましたが、出版までの経緯を知った上で読むと、また違った見方ができるはず。「悔しみノート」を番組に送った後から、梨うまいさん自身の人生も前向きに動き出しているのが垣間見れ、他人ながら少しほっとしています。
言いたいことが多すぎて、うまくまとめられませんでした。ですが、「悔しみノート」はきっと、あなたの人生に一撃を入れてくれる1冊になるはず。気になった人はぜひ(元気な時に)読んでみてくださいね。
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