「胸糞が悪くなってくる、それでも読まなければならない。お互いを理解したいから。」
これは、ある本の帯文に寄せられた言葉です。本を推薦するための帯文に、胸糞が悪い、なんて言葉が寄せられたことがかつてあったのでしょうか…。
今回は、清田隆之によるジェンダーエッセイ「さよなら、俺たち」を紹介します。個人的に読んでいて辛い気持ちになる、けれども、全男性必読と言える内容でした。
関連記事
目次
【書評】さよなら、俺たち
書名 | さよなら、俺たち |
著者 | 清田隆之 |
出版社 | スタンド・ブックス |
本体価格 | 1,700円+税 |
商品コード | 978-4-909048-08-0 |
失恋、家事、性的同意、風俗、夫婦別姓、マンスプレイニング、コロナ離婚etc.著者初の本格的ジェンダー・エッセイ集。
-商品紹介ページより
著者の清田氏は1980年東京都生まれで恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1000人以上の悩み相談に耳を傾け、それをコラムやラジオで紹介する活動をしています。
桃山商事について
著者の清田氏が代表を務めている「桃山商事」について。
桃山商事は2001年から「複数の男で女子のお悩みを聞く」というスタイルで活動を開始(通称、失恋ホスト)。現在は女性メンバーも加え、恋愛とジェンダーに関する情報をコラムやラジオ、動画などを通じて発信しています。
男性による男性に向けたジェンダーエッセイ集
「さよなら、俺たち」は男性の清田氏による男性に向けのジェンダーエッセイ集。
過去の手紙を掘り起こして、恋人のことを「お前」と呼んでいた過去の自分に驚愕する。男子校に6年間通ったことで自身に染み付いた典型的な”男らしさ”。そして、恋バナ収集の現場で聞いた男性のハラスメント行為が自身と重なりドキッとする自分…。
このように、本書は生い立ちや過去の恋愛、現在の桃山商事の活動といった清田氏自身の経験をもとに書かれています。
全て清田氏が体験したり見聞きした話なのですが、男性の読者であれば自身の行動や考え方と重なる部分が出てくるはず。
・男友達だけの場とそうでない場でキャラクターが変わるのは何故なのか
・なぜ女性は男性の前で泥酔すると、性的同意をしたと誤った認知をされてしまうのか
・男性が「男性である」というだけで得られている特権は何か
もちろん、全ての男性が本書で書かれていることに該当するわけではありません。けれど、「ジェンダー・ギャップ指数」で153か国中121位という日本の順位を見ても、男女間のジェンダー問題が存在することは間違いないでしょう。
参考
世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2020」を公表内閣府 男女共同参画局
わたし自身も正直思い当たる内容も多く、身につまされる思いをしながら読み進めました。
私の周りのジェンダー問題について
本書を読んで、私自身のことだけではなく職場の出来事も思い起こしました(すみません、ちょっとだけ個人的な話になります)。
私が通う会社は、社員が多くいわゆる体育会系気質が強い職場。社交的で面倒見がよい人が多いのですが、コミュニケーションをする上でたまに引っ掛かる点もありました。例えば、以下のような感じ。
・飲み会では女性社員に対して「ここにいる男性で誰に一番抱かれたいか」という質問が定番になっている
・セクハラを上手に受け流したり、自ら下ネタを披露する女性社員は「ノリが良い or 根性がある(見込みがある)」と評価される
上記は少なくとも現代の感覚では完全にアウトな行動ばかりですよね。私自身、こうした風潮に対して上司や同僚に疑問を呈したこともあります。
「みんなで盛り上がっているんだからいいじゃないか」
「下ネタを言うときはちゃんと相手を選んでいる(セクハラ耐性がありそうな人を選んでいる)」
「お前がそうした話題に入れない僻みでそんなことを言ってるんじゃないか」
ですが、得られる回答はこんな内容ばかりな上に現状も変えられず、モヤモヤした感情を持っていました。
しかし、本書を読んだあとは「彼らのコミュニケーションは、典型的な優越思考が表れた結果なんだな」と腑に落ちました(優越思考については本書2章を参照してみてください)。
そして、諦めずにおかしいことはおかしいと言い続けなければならないな、とも感じました。
男性が本書を読んでどのように感じるかが分かれ道
個人的には本書を読んでどのような感想を持つか。それが、「俺たち」から離れられるかどうかの分かれ道だと思っています。
例えばAmazonのレビュー欄では、女性と思われるカスタマーによって以下のように本書が紹介されています(ちなみに評価は星5)。
「これはほんとに男性に読んでほしい!」って思ったし、今回も思ったし、男性に向けたメッセージもあるのだけど、結局男性は読まないんだと思います。読んでくれない。読んだとしても、投げ出すか腐るか粗探しするか「女だって」と言い出しそう。
-Amazonレビューより一部抜粋
男性へのなかば諦めの入った評価に情けなくなる一方で、そんなことないよ!とも言いたい気持ちになります。では、こうした指摘もあるなかで、男性視点からのレビューはどうなっているのか。
ここでは敢えて引用しませんので、気になった人はぜひ直接確かめてみてください。見事に2種類の意見に分かれているのがわかるはずです。
まとめ
「さよなら、俺たち」は男性の清田氏が過去の自分の行動を振り返り、男性に向けて書かれたジェンダーエッセイです。
男性の読者の中には身につまされる感情や、辛い思いをしながら読むことになる人もいるかもしれません。ですが、「俺たち」から「私」という個人として生きていくために、ジェンダーについて知ることは必要なプロセスではないでしょうか。
全ての男性の必読書でもあり、フェミニズムやジェンダー問題を意識する取っ掛かりとしてもオススメの1冊です。
さよなら、俺たち。決して簡単なことではないし、これからだって囚われてしまう と思うけど、自分と向き合い、他者と向き合うためにも、まずは「私」という個人になる必要があるだろう。もう集合名詞に埋没したままではいられない。ばらばらな個人としてみんなと一緒に生きていくためにも、私は「俺たち」にさよならしてみたいと思う。
-「さよなら、俺たち」より
Twitterもやっています! https://twitter.com/LIB_blog_reader