【書評】不思議の国の少女たち / “不思議の国のアリス”たちのその後を描くダークファンタジー

「不思議の国のアリス」で家に戻ったアリスはその後、果たして普通の生活に戻れたのでしょうか?

今回はショーニン・マグワイアによるファンタジー小説「不思議の国の少女たち」の書評です。

【書評】不思議の国の少女たち

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書名 不思議の国の少女たち
著者 ショーニン・マグワイア 著/原島文世 訳
出版社 東京創元社
価格 本体840円+税
商品コード 978-4-488-56702-6

その学校に入学するのは、異世界へ行った、不思議の国のアリスのような子どもばかり。つまり“向こう”に帰りたいと切望する彼らに、現実と折り合うすべを教える学校なのだ。新しい生徒のナンシーもそんなひとり。ところが死者の世界に行った彼女に触発されたかのように、不気味な事件が…。アリスたちの“その後”を描いたファンタジー3部作開幕。ヒューゴー、ネビュラ、ローカス三賞受賞!世界幻想文学大賞候補作。
-商品紹介より

「不思議の国の少女たち」はアメリカの作家ショーニン・マグワイアによる小説。原題は「Every Heart a Doorway」。本作はアメリカのSF・ファンタジー作品に与えられるヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞を受賞しています。

“不思議の国のアリス”のその後を描いたファンタジー

「不思議の国のアリス」のアリス、「オズの魔法使い」のドロシー。彼女たちの共通点、それは「異世界に行き、帰ってきた子どもたち」ということ。異世界での胸躍る冒険から帰ってきた子どもたちはその後、普通の生活に戻れたのでしょうか?

異世界での冒険譚ではなく、そこから帰ってきた者たちの現実を描く物語が本書「不思議の国の少女たち」です。

舞台は異世界から帰ってきた少年少女が集う寄宿学校

本作はアメリカにある寄宿学校が舞台。その学校に入学してくるのは妖精の国やお菓子の国など、「異世界への旅」を経験した少年少女ばかりです。彼らは異世界から戻ってきたけれど、”向こう側へ帰る”ことを切望。つまり、現実の世界を息苦しく感じ、かつて滞在した”不思議の国”を本当の居場所だと感じている子供たちなのです。

物語は「死者の殿堂」から帰ってきた少女ナンシーが寄宿学校に入学するところから始まります。戻ってきた世界と折り合いが付けられないナンシー。そして、死者の世界にいた彼女に触発されたかのように、学校で不気味な事件が起きていく…。ポップな装丁とは違い、少々ダークで、サスペンス要素を含んだストーリーです。

説得力のある世界観が魅力

本書は「”不思議の国”から帰ってきた子どもたちのその後を描く」というファンタジー作品ですが、物語に不思議と説得力があります。

登場人物が旅をした異世界は、それぞれ様相が全く異なります。カラフルなお菓子の国もあれば、暗く静かな死者の国まで多種多様。Marvel映画で言うところの”マルチバース(多元宇宙・並行宇宙)”というと、イメージしやすいかもしれませんね。本書では、こうした多様な異世界について以下のように分類しています。

上は本書の内容をもとにして図にしたものですが、”論理や善悪”を地図における東西南北に置き換えているわけです。例えば「不思議の国のアリス」は、高ナンセンスかつ高ヴァーチュー、つまり図の右上の枠内に位置します。そして、登場する少年少女の性格や倫理観は、自身が旅をした異世界の影響を強く受けている、という設定。

本書はファンタジー作品ですが、一貫して現実世界での出来事が描かれます。上記は一例ですが、ベースとなる世界観の設定が作りこまれているため、説得力のある物語として違和感なく読み進められます。

まとめ

「不思議の国の少女たち」は、ファンタジー世界から帰ってきた子どもたちの現実を描いた作品。サスペンス要素もあるダークファンタジーです。

私は本書を読んで、ジブリ映画の「千と千尋の神隠し」を観た後、

「あんな刺激的な世界から帰ってきて、果たして千尋は今後普通に生きていけるのだろうか」

なんて感想を持ったことを思い出しました。

本作は全4作のシリーズ作品(内3作は邦訳版あり)の第一作目なので、気になる人はぜひ続編もチェックしてみてくださいね。

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2作目は「トランクの中に行った双子」。こちらはシリーズ第一作「不思議の国の少女たち」の前日譚。一作目にも登場した双子、ジャックとジルの物語です。

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3作目は「砂糖の空から落ちてきた少女」。時系列では一作目の続きにあたる物語です。

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