この本は、日本のアンダーグラウンドヒップホップシーンを垣間見ることができる1冊です。
ラッパーの漢a.k.a.GAMIによる自伝、それが本書「ヒップホップ・ドリーム」。本書は日本のヒップホップシーンがどのような道をたどって今に至ったのかを知る一助となる本です。
ということで、ここからは本書を読んだレビューを紹介していきます。
書評「ヒップホップドリーム」
出版社 | 河出書房新社 |
書名 | ヒップホップ・ドリーム |
ISBNコード | 978-4-309-41695-3 |
本体価格 | 760円+税 |
発売日 | 2019/7 |
ヒップホップヘッズならばご存じヒップホップレーベル「9SARI GROUP」の代表にして新宿のクルーMSCのリーダー。テレビ番組フリースタイルダンジョンの初代モンスター漢a.k.a.GAMI(2020年2月時点では同番組の審査員)。本書は彼の生い立ちからラッパーとして今に至るまでの過程が書かれた本です。
アングラシーンから見た日本語ラップの歴史がわかる
「ヒップホップ・ドリーム」は漢a.k.a.GAMIの自叙伝。そして、日本語ラップシーンの歴史を裏側から知ることができる1冊。
内容は主に日本語ラップの第二次ブーム1990年後半〜の流れから2000年代のMCバトルブーム黎明期、そしてフリースタイルダンジョン放送開始時期までが書かれています。漢a.k.a.GAMIといえば、新宿を拠点として活動しているラッパーとして有名。本書では、漢a.k.a.GAMIの視点を通して、当時のヒップホップシーン(特にアンダーグラウンドシーン)で何か起こっていたのかを知ることができます。個人的ですが、ここだけの話、本書はこれだけで読む価値があると断言できます。
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本書の中では般若やANARCHY、THA BLUE HERBのBOSS、RHYMESTERの宇多丸(文中では旧MCネームのSHIROと表記)をはじめ、数十人を超えるラッパーが登場。それぞれの人物とのエピソードがリアルで興味深いです。例えば、DABO(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)とのビーフのエピソードでは、漢a.k.a.GAMIの言うリアルとは何かを理解することができるはずです。
Column 2000年代の空気感
2000年代のはじめと言えば、1990年のバブル崩壊後の経済不況とそれに伴う就職氷河期の真っ只中。また、2001年のアメリカでは9.11同時多発テロ事件が発生(同時期には炭そ菌のテロなんかもありました)。
わたしは当時学生でしたが、いま思い返すと独特な、なんとなく暗い雰囲気が漂う時代だったように感じます。
文章もおもしろい!
内容もさることながら、読ませる文章も面白いのも本書のポイントの一つ。著者が強面のラッパーなのは間違いありませんが、その一方でユーモアさも持ち合わせています。例えば、アングラヒップホップシーンのいわゆるアレなブツについて「きれいな七枚葉の観葉植物」、「美味しいチョコレート」など、巧みな比喩で表現。それでいながら書いてある内容は思いっきりハードコアだったりして、思わず「これ書いちゃって大丈夫なやつ?」なんて冷や汗を感じる場面も。
これらのように、普段は見えない社会の一面を知ることができますし、何より文章にリズム感があり、飽きずに読み進めることができます。
まとめ
本書は一人のラッパーの自伝という意味合いだけでなく、日本のヒップホップシーンを知る上でも必読の1冊。漢a.k.a.GAMIのところどころユーモアな文章も良いですし、彼の「ヒップホップ哲学」も理解することができます。本書を読了後、MSCやMC漢名義のアルバムを聴いてみるのもまた一興ではないでしょうか。
また、文庫版ではライブラとの争いの結末や2019年時点でのMCバトルシーンに対する所感も書き下ろされており、こちらも読み応え抜群。
ベテランのヘッズから日本語ラップ初心者まで、ヒップホップシーンの理解を深めたい人はぜひ一読を!
新宿スタイルはリアルしか歌わねえ―マイク1本で頂点を競う純粋なるヒップホップの精神と、それを裏切るシーンの凶暴で陰惨なる現実。ビーフや騙し合いが渦巻く世界で、ラッパーは何を夢見るのか?シーンを牽引するカリスマによる自伝的「ヒップホップ哲学」にして、日本語ラップ・ブームの中で絶大な支持を集めた名著を、文庫化にあたり大幅増補。ファン必携の決定版!
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